問題社員対応

問題社員に対する懲戒処分の考え方

1 企業秩序と懲戒処分

 企業秩序に違反する行為があった場合には、制裁として懲戒処分を行うことができますが、懲戒処分を行うのに、就業規則で懲戒の種類と事由を定める必要があります(フジ興産事件最高裁判決参照)。

 なお、最高裁平成18年10月6日判決(ネスレ日本(懲戒解雇)事件)は、懲戒権の行使について、「企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われる」と判示しています。

2 懲戒処分の種類、有効要件

 懲戒処分として、一般の就業規則に定められているものとして、譴責、戒告、減給、出勤停止、停職、降格・降職、諭旨解雇・懲戒解雇が挙げられます。

 当該懲戒に係る労働者の行為の性質および態様その他の事情に照らして合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、懲戒権を濫用したものとして無効になります(労働契約法15条)。

 一般に、懲戒事由を定めた就業規則の遡及適用及び同一の事由での再度の懲戒はできませんが、始末書の不提出を理由とする懲戒処分の可否については、議論があります。

 また、懲戒当時に使用者が認識していなかった事由は懲戒事由とはなし得ないとされており(最高裁平成8年9月26日判決〔山口観光事件〕)、また、懲戒処分当時認識しながら懲戒事由として表示しなかった事由を事後的に懲戒事由として主張することはできないと考えられますが、懲戒解雇の相当性判断では考慮可能とした東京地裁平成24年3月13日判決等もあり、懲戒事由としてどの程度の事実を適示するべきか、立証の観点等から慎重な判断が求められるところです。

3 就業規則の定める手続きとの関係

 告知、弁明の機会の付与が就業規則に規定されている場合には、軽微な違反でない限り、手続規定に違反してなされた懲戒処分は無効となる傾向があり、就業規則の定めの確認や当該会社が実施可能な規定となっているか等の見直しが必要な場合もあると考えられます。

4 懲戒処分と不法行為の成否

 使用者が対象従業員の非違行為が存在しないことを知りながらあえて解雇した場合、あるいは、懲戒処分の相当性の判断において明白かつ重大な誤りがある場合に不法行為の成立を肯定した裁判例があります。

問題社員に対する懲戒解雇と退職金

1 懲戒解雇が有効な場合でも退職金の不支給が当然有効ではないこと

 懲戒解雇処分が有効な場合、一般に退職金が不支給となると一般に考えられており、それが普通解雇と懲戒解雇の違いとして挙げられますが、実務上、裁判例上はそうとは限りません。

 退職金が、算定基礎賃金に勤続年数別の支給率を乗じて算定されることを意味する賃金の後払いとしての性格と勤続年数が増えるにつれて支給率が上昇すること、自己都合退職よりも会社都合退職の方が支給率が高いこと、懲戒解雇の場合に不支給や減額となり得る等の功労報償としての性格を有することから、就業規則や退職金規程で懲戒解雇の場合には退職金を不支給とする条項があっても、それまでの勤続の功を抹消するほど著しく信義に反する背信的行為があったかという観点から審理が行われています。

2 退職金の不支給が争われた裁判例

 退職金の不支給が争われた裁判例として参考となりそうな裁判例をいくつか紹介します。

 ⑴ 退職金の不支給が有効と判断された裁判例として、生命保険会社社員が機密情報の入っ

たパソコンを質入れした事例(東京地裁平成11年3月26日)や、従業員が一斉に退職し会社の機能をマヒさせ、在庫商品を無断で社外に運び出し、顧客台帳やリース台帳を持ち出し元データを削除する等した東京地裁平成18年1月25日判決があります。

 ⑵ 鉄道会社従業員が痴漢で逮捕され懲戒解雇されたが、過去3回痴漢で検挙され、半年前

に逮捕された際には昇給停止及び降職処分だったという事実関係において、痴漢は私生活上の行為で、報道等特にされず会社の社会的評価や信用の低下等は生じていないことや、20年余の勤務態度が真面目であった事実を指摘し、背信性は強くないという判断により退職金の3割を支給するべきとして裁判例として東京高裁平成15年12月11日判決があります。

 ⑶ また、退職後競業他社へ就職した場合に退職金を半額とする規定を有効とした三晃社事

件最高裁昭和62年8月9日判決がありますが、在職中に競業他社を設立し役員に就任し開業準備行為をし、さらに、在職中に習得した技術を当該他社で利用した事例で、退職金の支払を拒否したことが有効とされた大阪地裁平成21年3月30日判決があります。

 一方で、競業他社へ就職した場合には退職金を支給しない旨の規定がある会社で、会社から一部違法な賃金削減等をされ退職に追い込まれ生活のためにやむなく競業と評価される自営業を行ったという事案で、不支給条項の必要性、退職従業員の退職に至る経緯、退職の目的、退職従業員が競業関係に立つ業務に従事したことにより被った会社の損害等を総合的に考慮し、退職金の不支給が違法と判断された名古屋高裁平成2年8月31日判決があります。

問題社員に対するに対する損害賠償請求

1 経営者が労働者に損害賠償を請求する場合の考え方

 ⑴ 労働者に対して損害賠償請求したいという相談は比較的多い相談類型であり、会社の金

銭を横領したような場合に損害賠償が認められるのは当然ですが、業務上のミスにより会社に損害が発生したケースや、引継ぎ等を十分に行わないまま退職した従業員に対し損害賠償を請求したいというようなケースでは、慎重な検討が求められます。

 ⑵ 経営者の労働者に対する損害賠償請求について、最高裁昭和51年7月8日判決は、

「使用者の事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他の諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」と判示しています。

 交通事故等の類型では、保険加入による事故予防・リスク分散の有無等も考慮要素になると考えられます。

 ⑶ なお、労働者が経営者の事業の執行について第三者に加えた損害を賠償した場合におけ

る労働者の経営者に対する求償の可否が問題となった最高裁令和2年2月28日判決は、労働者に対する損害賠償請求を考える上で参考になります。

 同最高裁判例は、 「被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え,その損害を賠償した場合には,被用者は,使用者の事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について,使用者に対して求償することができる。」旨判示しています。

 また、同最高裁判決には、弁護士出身の草野裁判官の考え方が色濃く反映している補足意見(「使用者は変動係数の小さい確率分布に従う偶発的財務事象としてこれに合理的に対応することが可能であり,しかも,使用者が上場会社であるときには,その終局的な利益帰属主体である使用者の株主は使用者の株式に対する投資を他の金融資産に対する投資と組み合わせることによって自らの負担に帰するリスクの大きさを自らの選好に応じて調整することが可能」等の表現)が付されています。

2 参考になる裁判例

 比較的最近の参考となる裁判例を紹介します。

⑴ 福岡地裁平成30年9月14日判決

 長距離トラックの運転手であった労働者が突然失踪したことにより受注していた運送業務が履行不能となった事案で、「労働者は、労働契約上の義務として、具体的に指示された業務を履行しないことによって使用者に生じる損害を、回避ないし減少させる措置をとる義務を負うと解される」と判示し、履行不能となった業務の受注金額から経費を控除した金額について労働者の損害賠償義務を認めました。

 ⑵ 東京地裁平成17年12月14日判決

 予算が決められた工事を発注する場合には予算を超えて発注することは許されておらず、金額を決めずに発注することも許されていないにもかかわらず、建設会社の製作推進部統括部長が見積りを取ることなく発注をし、これを隠蔽したまま退職したことに対して、会社が取引先に支払った金額を損害賠償請求した事案で、損害賠償義務を認めました。

 ⑶ 東京地裁平成15年12月12日判決

 中古車販売会社の店長が、客から代金全額が入金されてから納車するという会社のルールを知りながら、入金がない段階で車両を客に引渡して回収不能となった事案で、損害賠償義務を認めました。

 ⑷ 大阪地裁平成11年1月29日判決

 課長の地位にあった労働者が、見積価格での商品の仕入れが可能であったにもかかわらず、あえて1割高い価格で仕入れをした行為が会社の利益に反する背任行為に当たるとして、退職金の不支給及び会社からの損害賠償請求を認めました。

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